こんにちは。三重県熊野市のデザイン事務所ソルトグラフィックの塩崎です。
三重県の南部には御浜町というところがあり、そこでは昔から市木木綿というものが作られてきました(ちなみに私は御浜町で育ちました)。
三重県でいうと松坂木綿が有名ですが、この市木木綿も大変素晴らしいもの。その素晴らしさを一人でも多くに知ってもらいたく、ブログにした次第。
ソルトグラフィックで関わったデザイン部分とともに、市木木綿の魅力を記していきます
デザイン性の高い市木木綿とその魅力
市木木綿とは
市木木綿とは三重県南牟婁郡御浜町で古くから作られてきた伝統の木綿です。
明治時代頃からその生産ははじまり、最盛期には45軒もの織元があったそうです。しかし、昭和からの化学繊維などの大量生産に押され、産業は衰退。
私は御浜町の市木で育ちましたが、はずかしながら小さい頃は市木木綿というものがあることを知りませんでした。身の回りにも無かったし、かつての特産品はそれだけ地元でも忘れ去られた存在になりかけていました。
今では市木木綿の織元さんは一軒を残すのみとなっています。
市木木綿を受け継ぐ向井さん
そんな伝統産業である市木木綿を受け継ぐのは、以前ブログでも紹介させていただいた向井ふとん店の店主向井さん。
こんにちは。三重県熊野市のデザイン事務所ソルトグラフィックの塩崎です。今日は私がロゴデザインを担当させていただいた向井ふとん店さんのご紹介をします。熊野市にある向井ふとん店さんは遠方からもお客さんが訪れる老舗のふとん屋さん。[…]
ふとん屋さんのかたわら、休日などには御浜町にある市木木綿の工房に来て、生産を続けられています。
かつて、本当に市木木綿の伝統が廃れようとしていた時に、向井さんが手を挙げて、その技術を引き継いだそう。市木木綿の生地を織るとともに、ご自身のふとんの技術を生かし、布団や座布団、その他様々な商品を開発し、その知名度を高めてきました。今では熊野地方のお土産としても有名。
実は市木木綿の工房は私の実家から徒歩10分ぐらいの距離の場所にあります(これも大人になるまで知らなかった!)。住宅街の一角にある工房の内部は、まるでタイムスリップしたかの様なレトロな織り機で埋め尽くされています。
かつて使われていた織り機をそのまま使われているので、まるで明治の市木木綿最盛期の時代にタイムスリップしたかの様な感覚をうける工房。織り機、力織機(りきおりき)をはじめ、機械の風合い自体が素敵。
明治から使われている織り機なので、コンセントをさして動くというような仕組みではありません。一つの動力源から複数の織り機を動かすといった、ある種スチームパンク的な世界観のある工房です。
すでにこの織り機を生産しているところはないので、向井さんは日々メンテナンスをしながら、市木木綿を作り続けられています。
市木木綿の魅力
市木木綿の魅力は、何と言ってもその風合いにあります。
普通の布製品は撚(よ)りをかけた糸を使って作られますが、市木木綿は単糸(たんし)という撚りのない糸で作られます。単糸は非常にやわらかく、手で引っ張ると切れてしまうほど。現代の機械では織るのが難しい単糸ですが、明治から使い続けられている織り機なら、見事な木綿に織り上げてくれます。伝統的な木綿の手触りというのはこういうものだったのかということを知ることができます。
市木木綿製品は、最初はノリが効いていてちょっとかための手触りですが、使えば使うほどにその風合いは柔らかみを増してきます。私も家や仕事場で市木木綿の座布団を愛用をしています。使い込んでいくうちに、その手触りはどんどんとなめらかに変化していくので愛着もひとしお。
もう一つ市木木綿の魅力なのが、そのデザイン性にあります。
現在作られている市木木綿は縞模様のみ。ただ、その縞模様の色合いが面白く、レトロモダンな良さがあります。結構いろいろな色を使っていても、どの色も風合いが和の優しさがあるので、全体的に落ち着いた感じに。
昭和のころならば、この様な柄は古いと取られたかもしれませんが、令和の現代では一周回っておしゃれなデザイン。
様々な色彩、組み合わせの布があるので、きっと自分の好みにあった市木木綿が見つかるでしょう。手芸が得意な方は、布そのものを買って自分でバッグなどを作る方も。レトロなモンペを作った方もいましたが、色彩が面白さと縦縞のモダン性で、現代でも通用するセンスのものに仕上がっていました。
ちなみに向井ふとん店さんでは、好みの布でオーダーメイドの座布団も制作してくれます。最高のふとんの技術を持つ向井さんの作った座布団は、いつまでもへたらずふかふか。市木木綿のモダンな柄は和洋室問わず、マッチします。
市木木綿のロゴデザインと冊子
そんな伝統的な市木木綿のロゴと冊子を、ソルトグラフィックでデザインさせていただきました。
市木木綿のロゴマークは、縦糸と横糸が合わさり、やわらかな木綿が織りあがっていく様子を表現しています。市木木綿が持つやわらかな風合いを曲線で表現しました。
また「市木木綿」のロゴタイプは伝統的な産業でありつつも、これからも続いていくようにと、モダンな感じに仕上げました。
「綿」の字の「白」の部分に少しアクセントを。木綿織りで使われる木管を表現し、ロゴタイプにも伝統的な市木木綿の要素をもたせてあります。
冊子は、織り機でおられている市木木綿とその手触りを確認する向井さんの手のアップが表紙。
市木木綿の色の美しさと向井さんの職人の手で目を引くようにしました。また表紙の右上の白丸の部分には、実際に市木木綿を貼り付けて、その風合いを確かめられる様にしています。
中はレトロなフォントを使いつつ、市木木綿の歴史や良さ、そしてどのような製品が作られているかなどを網羅しています。下地に市木木綿のテクスチャを重ねることで、冊子全体からその雰囲気が伝わる様にデザインしています。
小さい頃には知らなかった市木木綿ですが、デザインで関わらせていただくうちに、その魅力に気付かされました。このような素晴らしい伝統産業が熊野地域に残っているのは、この地に住む私としても誇り。これからも多くの人に市木木綿の良さが広がっていけばと思います。
※ロゴやパンフレットなど各種デザインがご入用の時にはソルトグラフィックにご相談ください。
向井ふとん店さんのホームページはこちら
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